クレジットカードを作るときに気になることの一つに「利用可能枠」があります。利用可能枠はクレジットカードでどれだけの金額を利用できるのか、を示すものです。例えば、利用可能枠がショッピング枠50万円、キャッシング枠10万円であれば、そのクレジットカードの利用可能枠は合計で60万円となります。
ここでひとつ疑問となるのが、利用可能枠はどのようにして決められているのか、です。利用可能枠は個人個人で設定金額が異なってきます。設定金額はカード会社やそのカードのグレードなどによって変わりますが、最終的にはカード会社が判断するため、設定金額を予想するのは難しいです。
でも、実は多くのカード会社では“ある方法”を使ってクレジットカードの利用可能枠を決めていると言われています。しかも、そこに経済産業大臣が大きく関係していると言われているのです。今回は、利用可能枠の決め方と経済産業大臣との深い関係を解き明かしていくことにしましょう。
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クレジットカードの利用可能枠の存在意義
クレジットカードには“基本的に”利用可能枠が設定されています。利用可能枠はその名のとおり、決められたその範囲内で利用することが可能な枠のことで、カード会社やカードのグレードなどによって設定金額が変わってきます。
ただし、個人の信用力をもとに金額が設定されるため、同じカード会社の同じ券種でも人によっては利用可能枠の設定金額は大きく異なります。例えば、Aさんは利用可能枠が80万円なのにBさんの利用可能枠は30万円しかない、なんてことはよくあることです。これこそまさに信用力の差といえるでしょう。
クレジットカードには一般カード、ゴールドカード、プラチナカードといったように様々なランクがあり、最上位のランクとされるのがブラックカードです。さきほど“基本的に”という表現を使ったのは、ブラックカードには利用可能枠がない、もしくは、明確に設定されていないため、必ずしも利用可能枠が設定されているわけではないからです。誰から見ても明らかに信用力がある方は利用可能枠を無視してクレジットカードを使っていくことができるのです。
「ブラックカードを持つとヘリコプターが買える」なんて昔はよく言われていたのですが、これもあながち嘘ではないのです。ただ、クレジットカードでヘリコプターを買うことは非現実的なので、話半分で聞いておいたほうがいいでしょう。それでも、ブラックカード保有者は私たちの想像を超える使い方をしているのは事実です。
いずれにせよ、クレジットカードの利用可能枠はその人の許容を超えるような金額に設定されることはありません。「このぐらいの金額であれば無理なく利用できるであろう」とカード会社が判断して、金額が設定されます。適正な利用可能枠を設定していますので、それなのに支払いの遅れを何度も起こす方はカード会社のブラックリストに載る可能性が高くなります。
利用可能枠の設定金額=信用レベル
なぜ、個人個人で利用可能枠の設定金額に大きな差が出てしまうのでしょうか。その理由はずばり、個々で信用度が大きく異なるからです。
例えば、ともに年収400万円のAさんとBさんがいたとします。Aさんは正社員で勤続年数10年で持ち家あり、Bさんは契約社員で勤続年数5年で賃貸住まい、となると、一般的にはAさんのほうが信用度が高いと判断され、利用可能枠がBさんよりも多く設定される場合があります。つまり、利用可能枠の設定金額はその人の現在の信用レベルを表すと言っても過言ではないのです。
大事なのは、「利用可能枠の設定金額が低いから自分は信用度が低いんだ」とひどく落ち込まないことです。本当に信用度が低い人はそもそも審査の段階で落とされてクレジットカードを作ることすらできませんから、クレジットカードを作れる属性であることに自信を持つべきです。
今回はAさんとBさんの2人を例に挙げてみましたが、例えば、Aさんが40歳で、Bさんが25歳というように年齢に大きな差があれば、利用可能枠の設定金額(Aさん80万円、Bさん30万円)に大差が出るのはあり得ること、というか、ごく普通のことです。
クレヒスは年月をかけて蓄積していくものですから、年齢が若くクレヒスが乏しいとなれば、利用可能枠が低く設定されていても何ら不思議ではありません。20代の方は、これからクレジットカードを日々利用してクレヒスが構築できれば、早ければ20代のうちに、遅くとも30代、40代になったときに利用可能枠は必ず増枠されます。そのためにも、支払いの遅延などを起こさずに計画的に利用していくことが求められます。
計算式で利用可能枠の設定金額は決まる
クレジットカードの利用可能枠は最終的にカード会社が決めていますが、決め方には実はある法則があると言われています。下記の計算式を用いることで「包括支払可能見込額」をはじき出すことができ、これを参考にして利用可能枠が決められると言われています。
(年収等−生活維持費−クレジット債務※)×0.9
※カード会社に返済する1年間の支払い予想額
この計算式を用いてはじき出された包括支払可能見込額から、利用可能枠の大体の設定金額を決めることができると言われています。必ずしもこの計算式ではじき出された金額をもとに設定されるとは限りませんが、目安となっていることは間違いないので、参考にしてみてください。
ただ、ここで一つ疑問となるのが、生活維持費はどの程度を想定しているのか、です。生活維持費の想定は下記の表を参考にしてみましょう。
居住形態/世帯数 | 4人以上 | 3人 | 2人 | 1人 |
---|---|---|---|---|
住宅ローンなし or 借賃負担なし |
200万円 | 169万円 | 136万円 | 90万円 |
住宅ローンあり or 借賃負担あり |
240万円 | 209万円 | 177万円 | 116万円 |
生活維持費は日々の生活をするために必要な維持費のことですから、住宅ローンありの方・借賃負担ありの方は生活維持費が多くなると判断されるので、住宅ローンなしの方・借賃負担なしの方に比べると利用可能枠が少なくなってしまう可能性があります。
ただし、ここに年収等も判断材料になってきますので、住宅ローンを組めるぐらいの信用力がある方なら年収は少ないわけではないでしょうから、住宅ローンありの方は実は意外と利用可能枠が多く設定されることが多いです。
世帯人数が増えると生活維持費は増えてきますので、世帯人数が多い方は利用可能枠が低く設定される可能性がありますが、これも年収との兼ね合いがありますので、年収が多ければ世帯人数が多くても低く設定されるとは言い切れません。つまり、利用可能枠の設定金額は年収によって左右されるということです。
具体的な利用可能枠の計算
「生活維持費の表」から、大体のご自身の生活維持費を想定してみましょう。生活維持費がわかったら、実際に計算式を用いて、包括支払可能見込額をはじき出してみましょう。
より具体性を持たせるために、地方都市在住のAさん、東京都内在住のBさんの2パターンを例にとって、計算してみました。
・Aさん
年収300万円、家賃4万円の賃貸、世帯人数1人、想定利用金額5万円/月
(300万円-116万円-60万円)×0.9=135万円
・Bさん
年収500万円、家賃8万円の賃貸、世帯人数2人、想定利用金額7万円/月
(500万円-177万円-84万円)×0.9=215.1万円
結果をまとめると、Aさんの包括支払可能見込額は135万円、Bさんの包括支払可能見込額は215.1万円となりました。やはり年収によって包括支払可能見込額に差が出ることが明らかとなりました。
ただし、ここで覚えておかなければならないのは、包括支払可能見込額≠利用可能枠であるということです。例えば、Aさんの包括支払可能見込額は135万円でしたが、クレジットカード1社の利用可能枠が135万円となるわけではありません。
クレジットカードを複数保有することを想定して、1枚あたりの利用可能枠は包括支払可能見込額よりも低く設定されます。そうしないと、例えば、Aさんが最初に保有したクレジットカードの利用可能枠を135万円にしてしまうと、次にクレジットカードを作ったときに利用可能枠を設定してあげることができなくなってしまうからです。
支払可能見込額を「総与信枠」として捉え、そこからカード会社の裁量によって個々のクレジットカードの利用可能枠が決められていくことになる、と覚えておくとおわかりやすいでしょう。
0.9という数字は経産省大臣が告示
(年収等−生活維持費−クレジット債務)×0.9
この計算式をみて「どうして×0.9という半端な数字なの?」と思われた方は多いでしょう。筆者もその一人でしたのでご安心ください。中途半端な数字に関して色々と調べてみたところ、「×0.9」という数字は経済産業大臣が告示した割合であることがわかりました。
割賦販売法の改正が行われ、それにより2010年12月17日からクレジットカードの審査のルールが変更されました。具体的には、クレジットカードの新規発行時・更新時・増枠時に「包括支払見込額」の調査が必要になったため、上記の計算式を用いて包括支払見込額を計算し、許容を超えるような利用可能枠を設定できないようにしたのです。
なぜ、このようなリミットが必要になったのかは容易に想像できるでしょう。クレジットカードを保有すると計画的に利用できない人が必ず出てきてしまいます。計画性のない方は利用可能枠を目一杯使ってしまい、支払いに苦労し、挙句の果てには支払いの遅延・長期延滞を引き起こしてしまう可能性が高く、そうした人を少しでも減らすためにこのようなリミットを作る必要があったのです。
経済産業省はクレジットカード取引に関し責任の一端を背負っていますので、経済産業大臣が指示を出すことはごく自然のことだったのです。「×0.9」という数字が的確であるのかについては疑問は残りますが、トップが決めたことなので、今はこの「×0.9」という数字をもとに計算を行い、それが利用可能枠を決める一因となっています。
キャッシングは貸金業法により設定金額が決められる
クレジットカードにはキャッシングと呼ばれる、現金を借り入れる機能が付帯されることがあります。自分でキャッシング枠を設定できる場合(設定しないことも可能)もあります。ただし、キャッシング枠を多く設定しようとすると厳しい審査を乗り越えなければならなくなるため、許容の範囲内で設定し、計画的に利用することが求められます。
キャッシング枠にも利用可能枠がありますが、ショッピング枠のそれとは別物で、キャッシング枠は「貸金業法」によって設定金額が決められることになります。貸金業法の中に総量規制というものがあり、年収の3分の1を超える金額の借り入れを禁止していますので、年収300万円であれば100万円までしか借りることができません。
ただし、キャッシングを頻繁に利用する層は多重債務者になりやすい傾向があることから、実際のキャッシング枠は想定しているよりも低く設定されることが多いです。手数料がかかることで返済がスムーズにいかなくなることが多いので、キャッシング枠は10〜30万円もあれば十分です。利用する予定がないのであれば、キャッシング枠をゼロにしてもいいぐらいです。
すべての借り入れの合計が年収の3分の1以内に収まるようにしないといけないため、複数のクレジットカードでキャッシング枠が設けられている場合は、その合計が年収の3分の1以内に収まるように設定されます。言い換えると、何十枚もクレジットカードを持っている方は今後キャッシング枠を新たに設定できない可能性が高くなるということです。すべては多重債務者をこれ以上増やさないための施策です。
筆者の個人的な意見としては、キャッシング枠は基本的には必要ないです。お金を借りる手段を残しておくべき、という意見はありますが、そうならないように努力することが大事だからです。ただし、キャッシング枠があると海外のATMで現地通貨を引き出せる=両替できるので、海外旅行が趣味の方は両替のためにキャッシング枠を設定しておくと便利です。
審査のタイミングは大きく分けて3つ
利用可能枠の設定作業が行われるのはどのタイミングだと思いますか。審査のたびに利用可能枠の設定作業は行われますが、多くの方はクレジットカードの審査が新規申込時の1回しか行われない、と思っています。でも実は何回も行われているのです。審査のタイミングは大きく分けると3つありますので、覚えておきましょう。
新規申込時
1つ目の審査のタイミングは「新規申込時」です。
新しいクレジットカードを作る際にあなたの属性をカード会社が知る必要があるので、当然ながら、新規申込時には審査が行われることになります。これは誰もが想像できたことでしょう。
どのクレジットカードでも必ず所定の審査が行われます。審査不要と言われているデビットカードでさえ、所定の審査があることを謳っているのですから(デビットカードの審査は銀行口座の有無をチェックするのが主で、反社会的勢力を排除する目的があります)。ですから、新規発行されるクレジットカードの利用可能枠を設定する際に必ず審査が必要になり、あなたの属性をもとに金額が設定されます。
有効期限の更新時
2つ目の審査のタイミングは「有効期限の更新時」です。
クレジットカードには必ず有効期限が設定されています。有効期限を設定することでセキュリティーの向上やカード自体の老朽化を防ぐのが主な目的ですが、“審査”の観点からも有効期限は必要になってきます。
有効期限を迎えると通常は新しいカードが自動的に配送されてきますが、場合によっては配送されないことがあります。これがまさに審査が行われている証拠です。支払いの遅延を何度も引き起こした方は途上与信(契約期間中に行われる審査のこと)によって更新を拒否され、そのまま強制的に解約されることがあるのです。
クレジットカードは自動更新のイメージが強いですが、実際には有効期限が切れる前に審査(途上与信)が行われるので、更新拒否をされないために日々計画的に利用していくことが求められます。
増枠(申請)時
3つ目のタイミングは「増枠(申請)時」です。
大きな支出がある月に利用可能枠が足りなくて困った経験がある方は少なくないでしょう。そうしたときに備えて増枠申請を行うことができます。申請が通ると利用可能枠が増えます。
増枠は、カード会社に自らお願いをするパターンとカード会社が勝手に増額を行うパターンの2パターンあります。
カード会社にお願いする場合は、各カード会社のウェブサービスから増枠申請するか、サポートデスクに電話をかけて増枠したい旨を伝えましょう。それから増枠審査が行われ、1〜2週間程度で返答が来ます。場合によっては希望に沿えないこともあります。
カード会社が勝手に増枠を行う場合は、特に私たちのほうで手続きをする必要はありません。カード会社は定期的に途上与信(契約期間中に行われる審査のこと)を行っているため、支払いの延滞を起こさずに利用できていること、利用金額が増加傾向にあること、年収等の属性がよくなってきていること、などが確認できると増枠してくれることがあります。“勝手に増枠を行う”と表現しましたが、“ご厚意で増枠してくれる”と表現するほうが正しいかもしれません。
増枠申請の注意点
「クレジットカードを作ったのに利用可能枠が低くて困っている」、そういう声は実は意外と多いです。利用可能枠を増やしたい場合は「増枠審査」をしましょう。増枠申請とは、その名のとおり、利用可能枠の枠の増額をカード会社に申請することです。1〜2週間程度で申請の結果がわかり、申請が通ると枠が増額します。
ただし、増枠申請をする際の注意点がいくつかあります。注意点を守らないといつまで経っても増枠できない場合があるので気をつけましょう。
まず覚えておきたいのは、増額申請をする場合、新規発行から半年ないし1年は期間を空けたほうがいいということ。カードの新規発行から半年以内の増枠申請は基本的に審査に落とされることが多いです。カード会社からすれば「たった半年で属性は変わらないだろう」と判断されているわけです。事実、半年では属性はさほど変わりません。多くの会社では昇給は年1回なので年収が増えるタイミングが年1回しかないことを考えると、やはり、新規発行から最低でも1年は待つのが賢明です。
もう一つの注意点は、増枠申請に落とされてから短期間に何度も申請しないことです。ついついやってしまいがちですが、これは絶対にやめたほうがいいです。短期間に何度も増枠申請をすると、カード会社は「この人はお金に困っているのでは?」と判断して、申請を却下してしまいます。短期間での多重申請は要注意人物リスト入りする可能性もあるのでやめたほうがいいです。
増枠申請を何事もなく突破したいなら、毎月コツコツと利用して遅れることなく返済していくことが近道といえるでしょう。
「増枠申請をすると記録に残るのでは?」という不安の声がありますが、増額申請の有無については信用情報機関の記録に残ることはありませんので、ご安心ください。ただし、増枠審査に通って利用可能枠が増額した場合には信用情報機関に増枠した利用可能枠が記録されます。これがクレジットカードやローン契約の審査に悪影響を及ぼすことはありませんので、こちらもご安心ください。
利用可能枠が低くても気にしないことが大事
クレジットカードの利用可能枠が少ないことを気にする方はとても多いですが、そんな事を気にするのは正直言って無駄です。利用可能枠はカード会社が決めるものなので、私たちが抗議したところですぐに覆ることはありません。それにずっと文句を垂れていても仕方ないです。
たしかに、利用可能枠が低いことは大きなデメリットです。例えば、利用可能枠が10万円しかないとします。「利用可能枠10万円=毎月10万円まで使える」と勘違いする方が多いですが、忘れてはいけないのが「支払い残高」です。もし、先月6万円使ったら、今月の月末の返済日にその6万円を返すまでは今月の利用可能枠は10万円−6万円=4万円しか残っていないことになり、4万円の中でやりくりしなければなりません。
利用可能枠に関しては、支払い残高のことを考えて、1ヶ月間ではなく2ヶ月間で計算していくイメージを持ったほうがいいです。利用可能枠が少ない方は、「利用可能枠×0.5=毎月の利用の目安」としていかないと、利用可能枠が足りなくなって困ることが増えるでしょう。
利用可能枠が少なくてお困りの方は、増枠申請をするか、クレジットカードを新しく作ることをおすすめします。増枠申請を却下されても、クレジットカードが新しく作れれば、確実に新たに利用可能枠をとることができます。ただし、増枠申請は1〜2週間程度かかること、クレジットカードの新規発行も最短即日で作れますが、場合によっては2〜3週間かかることがあるので、お急ぎの方は発行までの時間をしっかりと確認しておく必要があります。
「近々大きな出費があるから利用可能枠を増やしたい、でも、増枠申請やカードの新規発行には時間がかかる...」とお悩みの方は、デビットカードやプリペイドカードでとりあえずその場を凌ぐことを検討しましょう。デビットカードやプリペイドカードならクレジットカードほど発行に時間がかかりませんし、誰でも作ることができます。
デビットカードやプリペイドカードを持つことを敬遠する方は意外に多いですが、支出の90%以上をクレジットカード決済している筆者でもデビットカードとプリペイドカードは持っています。筆者も最初は少なかった利用可能枠の対策に役立てていましたが、今は万が一に備えとして保有しています。
「それでもデビットカードやプリペイドカードは嫌」と言うならば、前払い式の電子マネーやQRコード決済サービスを使うといいでしょう。前払い式の電子マネーやQRコード決済サービスであれば、現金もしくは銀行口座からチャージできますので、預貯金の範囲内ではありますが、自由に使うことができます。特にQRコード決済サービスの場合、クレジットカードよりも高還元率でポイントをもらえたりすることが多いので、ポイント目当ての方はむしろ、PayPayなどのQRコード決済サービスを積極的に使うといいかもしれません。