決済をスムーズに行うために欠かせないクレジットカード。2019年10月に開始された還元事業にあわせ、キャッシュレス決済を利用しはじめた方は多いのではないでしょうか。それでも、日本は古くから現金決済を好む方が多く、キャッシュレス決済の分野では諸外国から大きく遅れをとっています。
近年、大きな問題となっているのが消費者のキャッシュレス決済に関する知識が追いついていないまま普及していることです。知識が浅い状態で使っていると実は被害に遭う可能性も高くなってしまうのです。
一昔前から問題となっているのが「クレジットカードの手数料上乗せ問題」です。今回はクレジットカードの手数料上乗せ問題とは何か、また、その対処法について初心者の方にもわかるように解説していきますのでぜひ最後までご覧になってください。
クレジットカードの手数料について
まず知っておきたいのは、クレジットカードにはいくつかの“手数料”があることです。大きく分けると「消費者が支払う手数料」と「加盟店が支払う手数料」の2つに分けることができます。この2つを理解しておくだけでもクレジットカードのことがよくわかってきます。
消費者が支払う手数料
クレジットカードの決済時に毎回手数料がかかると勘違いしている方は少なからずいますが、通常の決済(=一括払い)では手数料はかかりません。これを理解できていない一部ユーザーが「クレジットカードは手数料がかかるから損」などと言ってしまうわけですが、実際には通常利用では損をすることはありません。
私たち消費者が支払うクレジットカードの手数料は、大きく分けると「年会費」「リボ払いや分割払いの手数料」「キャッシングの手数料」があります。
まず、「年会費」についてですが、年会費とはその名のとおり、1年間に支払うクレジットカードの会費のことです。クレジットカードには年会費が有料と無料の2タイプあり、有料タイプは年会費がかかるので、それを手数料と捉えることができます。対して、年会費無料のクレジットカードは年会費がかからないので、無料のものを選べば手数料はかかりません。
一般的に年会費有料のクレジットカードのほうがサービスの質が高いですが、近年は年会費無料のクレジットカードでも十分なサービスを受けられるものが多いので、年会費無料のクレジットカードを選んでも全く問題ありません。
「リボ払いや分割払いの手数料」についてですが、クレジットカードで商品やサービスを購入する際には支払い方法を選べ、その一つとしてリボ払いや分割払いが選べます。リボ払いは月々の支払い金額を一定金額に分割して支払う方法で、分割払いは3回・5回...10回といったように分割回数を決めて支払う方法で、どちらもカード会社が独自に設定した比率の手数料がかかります。
リボ払いや分割払いは毎月の支払い金額を抑えることができるため、高額の買い物の際に利用されることが多いですが、支払いの総額は一括払いよりも多くなってしまうため、結果的に手数料で損をしてしまうことになります。ただし、二回払いは原則手数料がかからないので、手数料で損はしたくない、でも毎月の支払い金額を抑えたい、という場合は二回払いを選ぶのが賢明です。
最後に「キャッシングの手数料」ですが、キャッシングとはクレジットカードに付帯している現金を借り入れる機能で、カード会社から現金を借り入れるわけですから当然ながら利息=手数料がかかってきます。キャッシングは便利な機能ですが、手数料が高いので、生活費の足しに使うなど継続的な利用はおすすめできません。急な出費に備えるなどあくまで緊急時のための機能です。
加盟店が支払う手数料
実はクレジットカードの手数料について最も頭を抱えているのは消費者ではなく加盟店です。加盟店とはカード会社と契約しているお店のことで、カード会社の厳しい審査によって認可されたお店だけが加盟店になることができます。
加盟店はクレジットカード決済を可能にする環境を提供してもらう代わりにカード会社に「加盟店手数料」という形で、お礼のような手数料を支払わなければなりません。これが加盟店が支払う代表的な手数料となります。
実はこの加盟店手数料が加盟店にとってかなり負担となっていることから、「クレジットカードは手数料で損をする」という消費者の間違った認識が生まれてしまったのです。損をする可能性があるのは実は消費者ではなく加盟店なのです。
ちなみに、一般的な加盟店手数料のパーセンテージは以下です。
業種 |
加盟店手数料 |
コンビニ |
1〜2% |
家電量販店 |
1〜2% |
デパート・百貨店 |
2〜3% |
小売店・専門店 |
3〜5% |
飲食店 |
3〜5% |
クラブ・バー・居酒屋 |
4〜6% |
風俗店 |
7〜10% |
見てもらうとわかるように加盟店手数料は業種によってパーセンテージが大きく異なります。一つ言えるのは、コンビニや家電量販店など大手参入が目立つ業種ほど加盟店手数料率が低いということ。基本的に金銭面で苦労するのは小規模事業者なので、大手だけが優遇されるのはどうなのか、というのは以前から言われています。
例えば、1ヶ月の売上が1,000万円の街の小さな人気レストラン(業種:飲食店)で、5%の加盟店手数料を支払わなければならない場合、加盟店手数料は1,000万円×5%=50万円となります。単純に売上の5%をカード会社に持っていかれるわけですから、特に利益率の低い飲食店でクレジットカード決済を導入しないお店が多いのも思わず納得できてしまいますよね。
キャッシュレス決済が普及してきている中、「コンビニや家電量販店、デパートはどこもクレジットカードが使えるのに飲食店で使えないところが多いのはなぜ?」と多くの方が疑問に思っているでしょうが、クレジットカード決済ができる環境を導入できないのではなく、加盟店手数料の高さが原因となってあえて導入していない事業者が多いわけです。
クレジットカードの手数料上乗せ問題とは?
クレジットカードの手数料上乗せ問題とは、消費者である私たちがクレジットカード決済をしようとした際に、本来は加盟店が支払うべき加盟店手数料分を商品やサービスに上乗せして請求されることを言います。
イメージしやすいように具体的をあげてみましょう。例えば、バーで2人でお酒を飲み、お酒の代金の合計が10,000円だったはずが、実際の請求金額を見ると10,600円となっていた(チャージ代なし)。こういった場合は手数料が上乗せされた可能性が極めて高いです。
先述したように、バーの加盟店手数料は4〜6%と言われていますので、この事例では10,000円分の6%に相当する600円分の加盟店手数料が請求金額に上乗せされたことになります。
加盟店手数料は本来、加盟店がカード会社に支払うべき手数料となりますので、消費者には支払う義務がありません。しかしながら、加盟店手数料を代金の合計に何の違和感もなく上乗せして請求してくる加盟店は現在でも少なからずあります。これが「クレジットカードの手数料上乗せ問題」の実態です。
実は知らずうちに被害に遭っている可能性が高い
上記で具体例をあげてみましたが、これを見て「そのぐらいの金額では気づけない...」と感じた方は多いはずです。そうです、そこがキモなのです。加盟店手数料は言っても数%で、商品やサービスの合計金額をきちんと計算していない人がほとんどなので、提示された請求金額に何ら疑問を感じない人が多いのです。
例えば、風俗店なんかは加盟店手数料が10%となっていますので、10%も上乗せされればさすがに気づく人も増えてきますが、小売店・専門店、飲食店の3〜5%ぐらいだと気づく方は本当に少ないので、あなたも過去に知らずうちに手数料上乗せ問題の被害に遭っている可能性は十分にあるわけです。
ただ、コンビニや家電量販店といった大手では手数料を上乗せすることはありません。そのような事実が発覚すれば、たちまちSNS等で炎上してしまう世の中だからです。単に指導が徹底しているという側面もあるでしょう。
手数料上乗せは、実は昔からよく使われきた手口ですが、近年のキャッシュレス化の普及によってSNSで再度注目されるようになりました。実際にTwitterでは「カード決済時に手数料5%をいただいています」と言われたとツイートしている方もいました。形は違えど、これも手数料上乗せしているのと一緒です。昔は隠れながらやってきた手口も今では堂々としたものです。
まだ被害に遭われたことがない方も、今後、手数料上乗せの被害に遭う可能性は十分にあるので、この機会にこういった問題が蔓延していることを認識しておきましょう。また、家族や友人など知らない人に教えてあげることも大事です。
手数料の上乗せは違法ではなく規約違反
クレジットカードの手数料上乗せ問題に対して、カード会社はどのように捉えているのでしょうか。加盟店規約を見てみるとどのように解釈しているのか一目瞭然です。
例えば、国内最大手の三井住友カードの「加盟店規約 第7条(信用販売の方法)8項」に以下のように明記されています。
加盟店は、有効なカードを提示した会員に対して、商品の販売代金ならびにサービス提供代金について手数料等を上乗せする等現金客と異なる代金の請求をすること、およびカードの円滑な使用を妨げる何らの制限をも加えないものとします。また正当な理由なくして信用販売を拒絶し、代金の全額または一部(税金、送料等を含む)に対して直接現金支払いを要求する等、会員に対して差別的取扱いは行わないものとします。
「商品の販売代金ならびにサービス提供代金について手数料等を上乗せする等現金客と異なる代金の請求をすること...」が該当部分で、簡単にいえば、「クレジットカードの手数料を上乗せして請求することは規約違反である」という内容となっています。
三井住友カードのライバルであるJCBの「加盟店規約 第11条(加盟店の義務、差別的取扱いの禁止等)2項」にも以下のように明記されています。
加盟店は、有効なカードを提示した会員または有効なギフトカードの使用者に対し、信用販売またはギフトカードの取扱いを拒絶したり、 直接現金払いや他社の発行するクレジットカードまたはギフトカードの利用を要求したり、現金客と異なる代金を請求したり、信用販売 またはギフトカードの取扱いの金額
「現金客と異なる代金を請求したり...」が該当部分で、クレジットカードの手数料上乗せにおける問題を指摘しており、規約違反であることが明記されています。
他のカード会社の加盟店規約を見てみてもクレジットカードの手数料上乗せに関しては規約違反だとはっきりと明記されています。いま一度、お手持ちのカード発行元の加盟店規約をご確認ください。「◯◯カード 加盟店規約」などと検索すればウェブ上でも確認できます。
加盟店規約に手数料の上乗せが規約違反であることが明記してあれば、手数料の上乗せが規約違反であることを加盟店に自信を持って伝えることができるでしょう。もし、明記されていなくても規約違反であることは明白なのでその旨を伝えて構いません。
問題の原因は加盟店手数料の高さ
クレジットカードの手数料を上乗せすることが規約違反であることを知っていながら、手数料を上乗せをする加盟店が絶滅しない最大の理由は「加盟店手数料の高さ」にあるといえるでしょう。さきほども紹介しましたが、加盟店手数料のパーセンテージをもう一度見てみましょう。
業種 |
加盟店手数料 |
コンビニ |
1〜2% |
家電量販店 |
1〜2% |
デパート・百貨店 |
2〜3% |
小売店・専門店 |
3〜5% |
飲食店 |
3〜5% |
クラブ・バー・居酒屋 |
4〜6% |
風俗店 |
7〜10% |
ぱっと見た感じでは、「あーそれぐらいか」と思うかもしれませんが、これはいち消費者としての感覚で、事業者目線になってみると捉え方は全く変わってきます。
焼き鳥屋さんを例にとってみましょう。焼き鳥の原価は外国産の鶏肉の場合で約30円〜と言われており、安い焼き鳥さんだと1本100円程度で売っています。焼き鳥さんはお酒も出しますので、業種は居酒屋となり加盟店手数料は4〜6%かかる設定で計算してみましょう。
加盟店手数料が6%だとすると、1本100円あたりの焼き鳥に6円の手数料がかかります。原価が30円とすると、1本あたりの利益は「100円−(30円+6円)=64円」となります。ここに実際には人件費や店舗の賃料、光熱費などの固定費がかかってくるわけですから、1本あたりの利益を上げたい中で6円も手数料として取られてしまうのは薄利多売をビジネスモデルとする事業者としては実はかなりの痛手となります。
焼き鳥が1日に100本売れるお店なら1ヶ月で3,000本売り上げることになるので、加盟店手数料分の6円が不要になれば、3,000本×6円=18,000円の損をせずに済みます。
ただ実際にはクレジットカード決済を導入することで集客力が上がったり、客単価が上がることが多いので、単純に加盟店手数料のせいで利益が下がるとは言えず、多くの加盟店が手数料の高さと葛藤しており、頭を抱えているのが現状です。
上乗せされた手数料は支払わなくて良い
結論をいえば、上乗せされた手数料は支払わなくていいです。クレジットカード決済の際に手数料を上乗せするのは規約違反となっているからです。
加盟店手数料の高さから経営を圧迫されている加盟店は多いですが、それを承知の上でクレジットカード決済を導入したわけですから、すべての責任は事業者にあり、消費者が損をするなんてことはあってはいけません。
しかし、上乗せされた手数料を簡単に撤回してもらえるかというとそうでもなかったりします。表現方法を“巧み”に利用して手数料の上乗せをしていることを気付かれないようにしているお店が多いからです。
- カード決済できるのは◯◯円以上に限る
- ◯◯円以下のカード決済は△%の手数料がかかります
- 現金決済は◯◯円、カード決済は△△円(◯<△)
上記の表現方法はいずれも手数料を上乗せしているのと全く同じことで、もちろん規約違反となりますので、本来は支払う必要がありません。しかし、このような表現方法で記載されていると「そういうものなのか」と納得しがちで、指示に従って支払ってしまう方が大半です。
まずは、お店に入る前に手数料を上乗せしている事実がないかチェックすることが大事です。大手やチェーン店が規約違反をすることは稀で、小規模事業者のほうが規約違反をしていることが多いので、初めて利用するお店は口コミ等を事前にチェックしておいたほうがいいです。
手数料を上乗せさせられたときの対処法
では、実際に手数料を上乗せされてしまった場合はどう対処すればいいのでしょうか。対処法が2つありますので覚えておきましょう。
まず、実際の現場で最も効果的な対処法となるのは、規約違反であることを自分は把握していて、そのことを加盟店側に告げることです。「クレジットカード決済をするときに手数料を上乗せするのはカード会社の規約違反だと規約に書いてありましたが、確認のためにカード会社に連絡をしてみてもいいでしょうか」などと加盟店側に伝えると、加盟店側は上乗せするのをやめる可能性が高いです。
加盟店側が「そのような規約は聞いたことがありませんが?」などとカマをかけてくることはほとんどないでしょうが、そういった場合に備え、加盟店規約に明記されている手数料上乗せに該当する部分をスクショしておき、すぐに提示できるように準備しておけば、対策はこの上なく完璧です。
規約違反であることを告げると素直に手数料の撤廃に応じてくれるのは、加盟店は手数料の上乗せをすることが規約違反だとわかっていながら行っている場合がほとんどだからです。また、カード会社に規約違反であることを報告されバレてしまうと契約解除されてしまう可能性があるので実は事業者側のリスクも高いのです。
あまり知られていませんが、加盟店になる際には厳しい加盟店審査があります。せっかく契約したのに問題を起こして契約解除となってしまうと、再度加盟店に登録するのにまた面倒な手続きをしなければならず、それは避けたいと感じている事業者が多いです。
加盟店審査は、お店の業種をはじめ、提供しているサービスの内容、取扱商品などが審査対象となり、必要書類を提出し、平均2週間ほどの審査を経てやっと加盟店になることが許可されます。もしもどこかの項目で不備があれば、審査は長引くことになりますので、この面倒を避けるために一度契約したら契約解除になってしまうことは避けたいのです。
消費者はこれを逆手にとって「手数料を上乗せすることは規約違反である」という旨を強く伝えることで、スムーズな問題解決につなげることができます。
では、“既に”クレジットカード決済してしまった場合はどうでしょうか。この場合も慌てず、カード会社に連絡して手数料が上乗せされた旨を相談しましょう。残念ながら、上乗せされた手数料分を返金してくれる可能性は低いですが、加盟店にはペナルティが課されることになるため、今後利用する方の助けになるのは間違いないです。
多くの消費者が快適にクレジットカードを利用できる環境を整えるために、事業者もルールを守って利用していくことが大切です。
知っておきたい加盟店の本音
クレジットカードの手数料を上乗せすることは規約違反なのでやってはいけない行為です。しかし、手数料上乗せ問題に対して同情するクレジットカード愛好家は意外と多いです。
筆者には小さなお店を経営している友人がおり、その友人から「クレジットカード決済を導入したいけど手数料負担が大きくて悩んでいる」と相談を受けたことがあります。それ以降、普段は気にすることさえしなかった事業者の目線に立つことができました。
例えば、薄利多売のビジネスモデルだとほんの数%の手数料が経営を圧迫してしまいます。商品の価格を値上げして手数料分を賄えばいいとよく言いますが、実際に商品の価格を値上げすると売上が落ちてしまうため、こういうアドバイスは机上の空論でしかありません。
しかし、事業者としてはクレジットカード決済を導入することで集客力アップや客単価アップに期待できますし、会計処理時にミスが減るため、導入したいと考えるのは当然のことです。
この問題を簡単に解決する方法は、カード会社が加盟店手数料を引き下げることです。これさえ実現すれば、クレジットカードの手数料上乗せ問題はすぐに解決するでしょう。
では、なぜカード会社は重い腰を上げないのでしょうか。その理由はカード会社は自社の利益を最優先としているからです。これも当然といえば当然です。
カード会社が自社の利益を拡大していくうえで大切にすべきなのはカードを日々利用する消費者であり、その消費者にクレジットカードを快く利用してもらえる環境、様々な優良なサービスを提供する環境を整えるために収益拡大に努め、それを還元することを使命だと感じています(表向きには...)。
カード会社が事前に決めたルールを事業者は守るしかないため、現状ではこの高い加盟店手数料を支払うほかないのです。
海外の中小小売店の加盟店手数料を見てみると、オーストラリアは0.23%、イギリスは0.30%、中国は0.45%、アメリカは1.51%となっていると言われていますので、日本も同程度まで加盟店手数料を下げることは無理ではなさそうですが、そのためには日本でのカード利用率をさらに上げていかなければなりません。
というのも、加盟店手数料が低いオーストラリアやイギリス、中国、アメリカはカード利用率がかなり高いのです。日本のカード利用率は15%程度と言われていますが、オーストラリアは48.5%、イギリスは46.3%、中国は55.5%、アメリカは33.4%と言われているので、日本でもカード利用率50%前後まで上がってくれば加盟店手数料は下がる可能性があります。
そのためにも、私たち消費者は日々クレジットカードを積極的に利用していく必要があります。今日、手数料上乗せ問題について学んだ皆さんは今後クレジットカードを積極的に利用していくことで、間接的に事業者の手助けができるかもしれません。