お店に入る前に「キャッシュレス決済が可能かどうか」を気にするお客さんは増えてきていると筆者は感じています。2019年10月の消費税増に伴い実施される、キャッシュレス・消費者還元事業が今後さらに影響を与えてきます。
キャッシュレス・消費者還元事業とは、増税に伴って予想される消費減を対策するために政府が実施しているポイント還元事業で、キャッシュレス決済を行った場合を対象に期間限定で5%または2%のポイントを還元する内容となっています。
期間限定とはいえ最大5%のポイント還元を受けられるので、この機会に多くの方がキャッシュレス決済に移行するのではないか、と予測されています。これに伴い、私たち消費者はもちろんのこと、事業者も集客力や客単価をアップさせる良い機会となるので、積極的に導入していく必要があります。
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キャッシュレス決済とは?
そもそも、キャッシュレス決済とはどのような決済のことを指すのか、についてまずは簡単におさらいしていきます。
キャッシュレスとはその名のとおり、キャッシュ(=現金)がレス(=必要ない)という意味で、現金を使わない決済方法のことを言います。ここでは、カード決済や電子マネー決済、QRコード決済のことを言います。
カード決済には、クレジットカードのほか、銀行の口座残高から即時に利用金額が引き落としされるデビットカード、事前にチャージした金額分のみ利用できるプリペイドカードが含まれます。
電子マネー決済には、前払い(チャージ)タイプとして楽天Edyやnanaco、WAON、さらにSuica・PASMOといった交通系ICカード、後払いタイプとしてiDとQUICPayがあります。
QRコード決済には、PayPayをはじめ、LINE Pay、楽天ペイ、d払い、Origami Pay、メルペイ、FamiPay、ゆうちょPayなどが様々あり、今後種類がさらに増えていくことが予想されます。
ただし、QRコード決済似関してはセキュリティーに問題がありサービスを終了したものも過去にはありましたし(※その一例がセブンペイ)、還元率によって人気が変動しやすいので、その時々にあわせて好条件のものを使っていくのがおすすめです。
どのキャッシュレス決済を選ぶかはあなた次第ですが、利用する店舗がその支払い方法に対応していなければ利用したくても利用できませんので、消費者の私たちとしてはなるべく多くの方法を選択できる環境を整えておきたいところです。
例えば、クレジットカードならお持ちのクレジットカードの国際ブランドに対応しているかどうか、などを確認してから利用しましょう。日本国内ではVISAもしくはMastercardをどちらか1枚、それにJCBやAmerican Express、Dinersをどれか1枚持っておけばほとんどのクレジットカード加盟店で利用できます。
QRコード決済にしても、PayPayしかないとPayPayの非加盟店では使えないので、LINE Payやd払いあたりを使える環境も整えておきたいところです。
キャッシュレス決済を導入したある店舗の実例
事業者として気になるのはキャッシュレス決済を導入したところで、売上が増えるのかどうか、ではないでしょうか。
キャッシュレス決済の導入にあたっては初期費用や手数料がかかるため、そこを懸念して導入しない事業者は多いです。しかし、集客力と客単価が上がる事例は増えているので、事業者としても真剣にキャッシュレス決済の導入を考える必要があります。
これから話をするのは東京都四ツ谷の居酒屋「飯酒処 よつやのうさぎ」の実例です。(参考記事:居酒屋「よつやのうさぎ」がキャッシュレス化で変わったこと)
集客力がアップした理由
2018年12月にPayPayを導入した「よつやのうさぎ」では、1ヶ月の売上の決済比率の45%がPayPayだった月があったそうです。全体の半分近くがPayPayを利用したことになります。
キャッシュレス決済の多い主要駅のコンビニでもさすがにこの数字は達成できないでしょう。日本での決済比率のうちキャッシュレス決済は平均20%前後だと言われているので、45%という数字は驚異です。
PayPay利用率が増加した一つの理由として考えられるのは、「100億円キャンペーン」の影響です。100億円キャンペーンの第一弾では、利用金額の20%(月上限25万円のうち最大5万円)がキャッシュバックされるという内容で、当初4ヶ月間をキャンペーン期間にあてていましたが、10日で終了するほどの大反響で、多くの方を虜にしました。
ちなみにこの100億円キャンペーンの第一弾のときで約471万人がPayPayアプリを起動したと言われており、このおかげでPayPayは数あるQRコード決済サービスの中でも最も認知される結果となりました。
100億円キャンペーンの影響はかなり大きかったですが、集客力がアップした理由として、2018年12月という早い段階でPayPayを導入したことも大きな影響を与えた、と筆者は考えています。
というのは、小規模店舗ではキャッシュレス決済を利用できるところが意外と少なく、キャッシュレス決済をメインにしている層にとっては夜の飲み歩きに非常に苦労するからです。深夜になるとコンビニのATMでも現金を引き出せないことがありますからね...。
キャッシュレス決済を好む層は、キャッシュレス決済への動きが早い店舗は積極的に利用したくなってしまうものです。そこに100億円キャンペーンという誰しもが食いついてしまうようなキャンペーンが実施されたことが重なり、集客力が一気にアップしたのでしょう。
客単価がアップした理由
単純にキャッシュレス決済の利用率が増加しただけなら売上が増えるとは言えないかもしれません。例えば、常連客だけで成り立っているようなお店で常連客が現金決済からキャッシュレス決済に移行しただけなら、売上はそこまで増えないですよね。
しかし、さきほどから例に出している「よつやのうさぎ」では集客力だけでなく“客単価”もアップしたというから驚きです。PayPay導入前は客単価は3,500〜4,000円でしたが、導入後は4,000円台後半〜5,000円台前半まで上がった、といいます。一人あたり最大で1,500円以上も客単価をアップさせるのはそう簡単なことではありません。
キャッシュレス決済は手元に現金がなくても決済できる安心感があるため、利用者の客単価がアップするのも納得できます。クレジットカードを持つとつい使いすぎてしまう、という現象に似ているでしょう。
現金決済だと「今日は手持ちが少ないからこの辺にしておこう」なんて思ってしまい、必然的に客単価はダウンしてしまいます。でも、キャッシュレス決済ならそういう考えはしなくなります。それこそ、PayPayのようなQRコード決済なら残高が足りなくなっても、クレジットカードや銀行口座などから即座にチャージできるので手持ちが不足する心配がなくなるだけでなく、ATMに出向く手間さえ省けてしまうわけです。
もちろん、私たち利用者としては使いすぎには注意しなければなりませんが、心に余裕が持てるようになるのはキャッシュレス決済の大きな強みといえます。
キャッシュレス決済導入に特に効果がある店舗とは?
キャッシュレス決済を導入した場合に特に効果が出やすいと言われているのが「小規模店舗」です。さきほど例に出した集客力や客単価がアップした居酒屋も小規模店舗でした。
小規模店舗が特に効果ありと言われるのは、小規模店舗はキャッシュレス決済ができないところが多いためです。早急にキャッシュレス決済を導入すれば、キャッシュレス決済をメインにしている層にとっては積極的に利用したくなるわけです。現金主義だけでなく、キャッシュレス主義も取り込めるようになるわけですから、集客力はアップして当然です。
小規模店舗がキャッシュレス決済の導入に消極的なのは、例えば、クレジットカード決済を導入する場合、多額の加盟店手数料を払わなければならないからです。
加盟店手数料とはお店側がカード会社に支払う手数料で、カード決済ができる環境を整えてくれてありがとうございます、といった謝礼のようなもので、これはお店側が毎月負担しなければなりません。
店舗の形態によってクレジットカードの加盟店手数料は異なり、コンビニや家電量販店などでは低く設定されますが、小規模店舗では高く設定されることが多いため、これが経営を圧迫する懸念材料となり、多くの小規模店舗ではクレジットカード決済の導入を避けています。
しかし、同じキャッシュレス決済でもQRコード決済のPayPayの場合は、サービス開始当初、初期費用や手数料などをPayPay側が負担する形をとったため、小規模店舗でも気軽に導入することができたのです。
PayPayは今後、初期費用や手数料が有料になる可能性があるとサービス開始当初から予告していますが、それでも無料期間に導入すれば事業者としては大きな負担軽減につながるわけで、実際にこの無料期間に申し込んだ事業者はとても多かったです。
その結果、QRコード決済の中で今最も利用できる店舗が多いのはPayPayと言っても過言ではないほど利用シーンは広がり、それに伴い認知度も高くなっています。
キャッシュレス決済をメインに利用している層は、クレジットカードは使えなくても電子マネーやQRコード決済が利用できれば十分と考えている方が多いので、今回のPayPayの無料導入の施策は成功だったといえるのではないでしょうか。
コンビニや居酒屋チェーン・タクシーはほぼ導入済み
では、大手のコンビニや居酒屋チェーン、タクシー会社にとってはキャッシュレス決済の導入はどのように効果を与えたのでしょうか。実際のところ、小規模店舗ほどは効果がなかったかもしれません。というのは、大手のコンビニや居酒屋チェーン、タクシーは誰でも普段から利用するものなので、そもそも集客自体にはそこまで困っていません。
しかしながら、キャッシュレス決済を希望する層が一定数いることは理解していたようで、どこよりも先駆けてキャッシュレス決済を導入しています。その結果、キャッシュレス化の波に乗り遅れずに済んだ、という点では迅速な対応を評価してもいいのではないでしょうか。
クレジットカードはもちろん、電子マネー、そしてQRコード決済と様々なキャッシュレス決済を導入しているため、今では大手のコンビニや居酒屋チェーン・タクシー会社はどんな決済方法も利用できる安心感があります。
日本人への対策はもちろんのこと、これはインバウンド向けの対策にもなります。というのは、2020年東京オリンピックに向け、訪日客は増加傾向にあり、海外の方が困らないように特に大手コンビニ・タクシー会社はキャッシュレス決済の導入を急ぐ必要がありました。
事業者としては、対外国人との現金のやりとりは意思疎通がとれない不安感があるので、キャッシュレス決済を選んだもらったほうが安心感があったりします。キャッシュレス決済できれば外貨両替をする必要がなくなり、その分回せるお金も増えてきますので、訪日外国人の客単価アップにも繋がってきます。
「日本は根っからの現金社会だ」と世界から揶揄されてきましたが、徐々にそんなイメージは改善されつつあると言っていいでしょう。
キャッシュレス決済の利用率について
ここまでみても「キャッシュレス決済は導入したいけど実際にうちでも使ってくれるかは未知数…」と不安を抱える事業者は少なくないかもしれません。しかし、着実にキャッシュレス決済の利用率は増えているので安心してください。
JCBが発表した「キャッシュレス決済に関する調査」によれば、全国の20〜60代の会計担当者300人を対象に調査を行ったところ、6割の方が週に1回以上キャッシュレス決済を利用していることが明らかになりました。
筆者はこの調査結果を知り、まずはじめに感じたのは「意外に多い!」ということでした。というのは、筆者の周りにはキャッシュレス決済をしている人があまり多くなく、やはり、現金主義はまだまだ多いと感じていたからです。
また、同調査では対象者の5人に4人が「キャッシュレス決済は現金支払いよりも便利」と回答していたそうです。現金主義は「現金でも困らない」とよく言いますが、実際にキャッシュレス決済を経験するとその利便性の高さに惹かれてしまうことがよくわかる調査結果です。
筆者も昔は現金主義でしたが、キャッシュレス決済を何度か経験しているうちに気づけばしつこいぐらいのキャッシュレス主義となっていました(笑)。
さらに、キャッシュレス決済ができない環境では2人に1人が「来店意欲が減少」と回答、4割は「実際に来店を取りやめた経験あり」と回答していました。
たしかに筆者も財布に常に2〜3千円しか入っていないときは「現金だと足りないかもしれない」という不安があるので、キャッシュレス決済ができないお店は控えたいと感じるようになります。もちろん、単純に現金決済が面倒だから避けている方も多いでしょう。
2019年10月より開始するポイント還元最大5%を受けられる「キャッシュレス・消費者還元事業」にあわせ、キャッシュレス決済を行いたいと感じているのは4人に3人もいるとのことなので、今後ますますキャッシュレス決済をする方が増えていくことは間違いありません。
キャッシュレス決済は全然難しくない
キャッシュレス決済を利用しない理由の一つに「使いたいけどわからないことが多すぎる」という意見があります。
たしかにキャッシュレス決済は種類がかなり増えていますので、すべての使い方をマスターするのには時間がかかるかもしれません。でも、基本的な使い方は全然難しくないです。
クレジットカード決済、電子マネー決済、QRコード決済のそれぞれの基本的な使い方を簡単におさらいしていきましょう。
クレジットカード決済
「支払いはクレジットカードで」と店員さんに伝え、クレジットカードを渡し、サインもしくは暗証番号を入力すれば決済完了です。
店舗によっては自分でクレジットカードをスライドする、もしくは、挿入するタイプもあります(セキュリティーの面からこのタイプは最近増えてきています)し、サインや暗証番号が必要ない場合もあります。
電子マネー決済
「支払いは◯◯(電子マネーの種類)で」と店員さんに伝え、その電子マネーをスマホで立ち上げ、専用の読み取り端末にかざすだけで決済完了です。
例えば、iPhone XでiDで決済する場合、サイドボタンをダブルクリックするとiPhoneに取り込んだiDの支払いに使うクレジットカードが表示されますので、あとはFace ID(顔認証)で認証を完了させ、読み取り端末にかざすだけで決済は完了です。
店舗によっては電子マネーの種類を自分で選択する場合もありますので、はじめて利用する際は選択を間違わないようにその電子マネーのロゴも覚えておくといいでしょう。
QRコード決済
「支払いは◯◯(QRコード決済のサービス名)で」と店員さんに伝え、QRコード決済専用のアプリを立ち上げ、アプリ上に表示されるバーコードを店員さんがスキャン、もしくは、レジ付近に設置されているQRコードを自らスキャンして金額を入力して支払いをすれば決済完了です。
例えば、iPhoneでPayPayで決済する場合、PayPayアプリを立ち上げ、「支払う」をタップするとバーコードが表示されるのでバーコードスキャンならそのまま店員さんに提示、QRコードスキャンなら「スキャン支払い」をタップするとカメラが立ち上がるのでレジ付近に表示されているQRコードを読み取り、金額を自分で入力し店員さんに確認してもらってから決済を完了させます。
PayPayの場合、QRコードスキャンだとカメラの立ち上げから金額の入力→店員さんへの確認→支払い、といった形でステップが増えてしまうので、バーコードスキャンで支払ったほうが楽チンです。このように一つのQRコード決済でも複数の支払い方法が選択できる場合がありますので事前に確認しておきましょう。
キャッシュレス決済はどれも基本的な使い方は決して難しくありませんが、上記のやり方をみてみるとQRコード決済は明らかに複雑であることがわかり、電子マネー決済も少し複雑に感じ、クレジットカードが最も気楽に使えるイメージを持たれたかもしれません。
しかしながら、当サイトで行った「現金とキャッシュレス決済(クレカ/電子マネー/QRコード)の1日の決済時間を比較検証」では、決済時間は電子マネーが最速で、次いでクレジットカード決済、僅差でQRコード決済の順となったので、最速を求める方には電子マネー決済がおすすめです。
それでも、ポイントを効率よく貯めたいならQRコード決済が最もおすすめです。というのは、QRコード決済の残高チャージにクレジットカードを使うことでクレジットカード決済利用分とQRコード決済利用分の2つのポイントを獲得できるからです。
QRコード決済なら事業者の導入も楽チン
消費者がQRコード決済を利用したくても事業者が導入してくれなければ使うことができません。これでは両者がメリットを享受できなくなってしまいます。消費者の動きにあわせ、事業者も柔軟に対応していかなければなりません。そこで最後に事業者のキャッシュレス決済の導入についてお話しておきます。
「キャッシュレス決済は導入が面倒」というイメージがあるかもしれませんが、QRコード決済はむしろ導入しやすさで評価されているので、キャッシュレス決済をまだ導入したことがない事業者にもおすすめできます。
「PayPay」を例にとって導入の流れを見てみることにしましょう。
PayPayは、「オンラインフォーム」から申し込めるようになっています。申込書に必要事項を手書きして、封筒に切手を貼り付けて、郵便ポストに投函...なんて古臭いことはしなくて済みます。
オンラインフォームから申込者の氏名とメールアドレス、連絡先、事業形態を入力して申し込むと、申込みフォームのリンクが記載されたメールが返ってきますので、そこから導入の手続きをしていくことになります。
導入にあたって審査があります。審査はどのキャッシュレス決済にもあります。ただ、PayPayの場合は最短で1営業日で審査結果がわかるのが魅力です。クレジットカードの場合は平均2週間、それ以上かかることもあるので、PayPayがいかにスピーディーであるかがわかると思います。また、クレジットカードの審査ほど厳しくないので安心感もあります。
審査結果はメールでのお知らせとなり、審査に通過すると約1週間程度でPayPayのコードキット(QRコードが記載されたキット)が送られてきますので、あとは組み立てて設置するだけで利用を開始できます。
ちなみに、PayPayは初期費用無料(スマホやタブレットでOKなので専用端末が必要なし)、また、決済手数料無料(2021月9月31日まで)、入金手数料無料(ジャパンネット銀行は永年、その他の銀行は2020年6月30日まで無料)となっているため、かなり手軽に導入できるようになっています。
PayPayをはじめとしたQRコード決済は導入までの流れが非常にシンプルになっているので、未だキャッシュレス決済を導入していない店舗ではまず手始めとしてQRコード決済から導入すると、今後カード決済や電子マネー決済の導入にも着手しやすくなるかもしれません。